バラの日本史
 
第9章 昭和時代 - 昭和15年

第9章 昭和時代 – 昭和15年

昭和初期の植物の通信販売目録『バラエン』から、昭和15年のバラ事情を紹介します。

 

『昭和十五年度 春季植物目録録』
第三百六十七號
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『バラエン』という植物目録の昭和15年度の春季植物総目録です。
全48ページ中8ページ目~14ページ目にバラが掲載されています。1ページから7ページは目次(又は目録のダイジェスト?)なのでバラがトップだといっても良いでしょう。

 

最新最高級優秀花揃

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最新薔薇 昭和十五年度 發賣
御期待の昭和十五年度發賣の新種はすばらしい優秀銘花揃です こんな超高級の銘花揃の年は又と有りますまい

大金剛   貳圓五拾錢
黄金の新種
輝くばかりの黄色にして本種の右に出ずるものなし然も風雨に會ふも褪色せず落な花の終末に至るまで輝かしき色彩を變せず莖は打ちくしき暗紅色にして光澤を有し葉は鮮かなる緑色に梢々青銅色を装ふ樹勢立勢を形勢の病害及寒氣に強く英國に於て最高名譽誉を受く花容の崇高至純正にバラ界の王座を占む

聖運   貳圓五拾錢
雪白の新種
清麗無類會見ざる雪白色四季咲八重巨大輪花莖強く性強健純木にして病菌に強きこと前種に等しく品評會に於て入賞の榮冠を得たる白色中の冠たり殊に芳香強烈にて花壇に切花に鉢植に實に申し分のない萬人向のする稀代の優秀新花にて批類なき白バラ界の冠たり

錦鶏   貳圓五拾錢
覆輪の新種
瓣の外面美しき林子色内瓣軟かなる淡い鮭肉色基部ウコン色を漲らした花苗又洋紅色麗はしく長型上品自然の妙技本種に盡く花型整然たる八重四季咲の巨大輪花壇切花鉢植として一點缺くる處なく花付多く特有る芳香頗の高く品評會用として絶好

 

ここまでが2円50銭。その他に1円70銭が「肇國」「黎明の輝」1円50銭が「麗春苑」「恩賜衣」です。

「大金剛」の説明を見ると「英國に於て最高名譽誉を受く」とあります。英国のバラ賞といえばNRS(National Rose Society イギリスバラ協会の賞)でしょうか。昭和15年は1940年ですが、何年の受賞花でしょうか。1940年度の受賞花がすぐに仕入れられたのか、それとも数年前の受賞花か・・・この頃はどのような輸入事情だったのでしょう。
名前も英国で「大金剛」と命名されたわけではないでしょう。何という原名のバラに「大金剛」という和名を付けたのでしょう。

 

最新特別高級薔薇

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この幣社が今までにこれ程銘花として總ての點を具備した品種を作出した事はございませぬ正に不出世の銘花神品と言ふべきです

聖代の春 特別銘花   六圓
驚くべき豊麗巨大花
花瓣厚く劍瓣花形は整然理想的なるクリーム淡レモン黄粧其の彩色の妙筆絶芳香特に峻烈性強健四季咲多花性これこそ正に銘花としての總ての要求を具備する不出世の銘花です

八絋の輝 特別銘花   五圓
絶世の巨大花
彩色絢爛實に恍惚せしむる鮮麗なる濃々照紅高心形花容整然芳香峻烈最後まで褪色せざる近來の稀品にして斯界に於ける重鎮紅黄花中此の右に出づるものなく色彩の優艶なると花容の豊大なると花容へ豊大なるには何人も一驚するならん殊に性強健純木性四季咲着蕾多き稀代の神品

 

どちらもハイブリッド・ティー礼賛といった感じです。前出の「大金剛」が2円50銭であったことを考えると、5円、6円というのは本当に「特別高級」です。「全ての要求を具備する」「右に出るものなく」と、かなりの自信作だったのでしょう。

 

問題の薔薇 最新作出 珍色貴品

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此の三種こそ其の彩色の珍貴 花形の驚異的の新型 斯界に問題となる珍種揃です

黒珠精   四圓五拾錢
黒花の珍種
今まで黒花も四五種は作出されましたが中輪或は性質弱許し難き缺點揃でしたが本種こそ正に奇跡の出現花容巨大なる眞の黒濡羽烏色花容豊麗芳香最強の銘花最高の貴珍花 花瓣厚くして且つ廣く花形型又理想的にして分枝多きを以つて花付頗るよく實に希望するところを最も完全に具備して一點遺憾なく將來壓倒的人氣を最優秀級種の貫禄を發揮する銘花珍色又豊大清新花香熟したる果實の如き魅力を有す樹性強健病害に對する抵抗最も強し

興亞の曉   四圓五拾錢
朱銅金樺の珍色
本種の彩色は筆畫にあらはし難き神秘なもの何しろ黄地朱銅珊瑚色を全瓣に漲し金樺に變ず其の變地の至妙畫に表す事の出來ぬ珍品花瓣丸瓣滿開牡丹咲四季咲芳香峻烈の高貴品種豊大艶美眞に萬人驚倒の優秀花にして花輪の偉大なること香氣の峻烈なること絶對從來のバラに見ざるところ花立ち好く四時殆ど花の絶ゆることなし弊社が幾多のバラ中廣く江湖に御愛培を進めんとする最も最高級種なり

世紀の錦   四圓五拾錢
絞り花の出現
これこそ理想の出現奇跡の出現と申すべきで待望久しかりし絞り花がバラエンによって初めて作出されました色彩優艶なるピンクに鮮麗なる雪白の大立絞り又は刷毛目其の鮮明なる正に前代未聞の珍彩加ふるに花形整然なる劍瓣中心高組形崇高至純可驚巨大輪芳香峻烈滿開に至るも花容整正これこそ奇跡の出現と申すべき最高の銘花

 

「黒珠精」は黒バラです。「黒濡羽烏色」はカラスの濡れ羽色ということですね。本当にそうだとしたら見たことが無いくらい黒いことになります。そして許し難く弱々しかった性質が改善されています。
「興亞の曉」は黄地朱銅珊瑚色。黄色地に、朱色で、銅メダルのような色で、珊瑚色・・・? 難しいです、まさに筆画に表し難いものがあります。
「世紀の錦」はピンクと白の絞りです。「待望久しかりし」と絞りは期待されていたのですね。「刷毛目其の鮮明なる」ですから随分はっきりした絞りのようです。

 

次に、新種ではないけれど「最高級」とされるバラがたくさん紹介されています。
花名と値段だけを簡単にまとめてみました。

 

特別最高級薔薇特撰 & 最高の薔薇

千代の榮 参圓
御國の譽 貳圓
聖代の輝 貳圓八拾錢
末央宮 壹圓五拾錢
大麟鳳 貳圓五拾錢
祥陽 貳圓五拾錢
聖輝 貳圓
寶祚の榮 貳圓
芙蓉の雪 壹圓五拾錢
八絋の榮 貳圓
芳麗 壹圓五拾錢
昭陽 壹圓
玉輦 壹圓五拾錢
大雪嶺 壹圓
興亞の春 壹圓五拾錢
春華 壹圓五拾錢
錦樓閣 貳圓
曉映 壹圓參拾錢
銀閣 壹圓五拾錢
待春 壹圓五拾錢
玉尊 壹圓參拾錢
天壞 壹圓五拾錢
無窮の譽 壹圓參拾錢
關雪 壹圓
聖恩 壹圓參拾錢
金帝 壹圓
國ノ輝 壹圓
玉階 壹圓
扶桑 壹圓參拾錢
麗鳳 壹圓
燦麗 壹圓
白鳳 壹圓
霞ノ關 壹圓
玉祥 壹圓
大國華 壹圓
丹嶂 八拾錢
春琴抄 壹圓
金城 壹圓
白雪 壹圓
大觀 八拾錢
曉陽 壹圓
豊明殿 參拾五錢
大統 七拾錢
白瑤 八拾錢
天照 壹圓
玉鳳 壹圓貳拾錢
玉恩 八拾錢
宣春 六拾錢
月皎 八拾錢
バルセロナ 四拾五錢
エスペランス 六拾錢
オスワルド シーベル 五拾錢
エフ カンポ 五拾錢
ダーガー 五拾錢

 

たくさん掲載されています。花の説明は省きましたが、どれも、秀麗で優美で巨大輪で四季咲で強健で銘花らしいです。

 

最後に、1ページを割いて紹介しているのがクライミングローズです。

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最新巨大 輸入房咲 クライミングローズ

最新巨大輪咲蔓性バラを直輸入いたしました
其の花が普通バラと少しも變らぬ豊麗巨大輪と言ふのですから此の滿開は其れは其れは美しいものです

こんな所に御植下さるなれば
花園に薔薇の花柵をお作り願ひたいものです 丁度藤棚の様にアーチに玄關口に家屋や建物に昇らせば、一寸贅澤ですが生牆の所々にもこうゆく風に申せば植付願はなければならぬ所はいくらでもございます 其れに近代的文化住宅なれば此のバラをお見逃しになる事出来ませぬ

 

ツルバラはバーゴラや建物に誘引しましょう、ということです。バーゴラとは元は葡萄棚のことだそうで、つる性の植物を絡ませるためのトンネル状の棚を意味します。目録の写真に見本が写っているのがおわかりになりますか?巨大なバーゴラです。
さて、こんなバーゴラにどんなつるバラを絡ませるのでしょうか。

 

昭和十五年度新種 最新特別銘花

クライミングローズにこんなすばらしい銘花が作り出されました 彩色秀麗花容豊麗の最新銘花で其上揃ふで四季咲種を凌駕する芳香峻烈なるすばらしいクライミングローズです

興亞の輝   貳圓八拾錢
巨大花比類なき眞赤色絶對に褪色せず花又花と連續開花し且つ樹性強健發育旺盛よく繁茂しアーチピーラ用として絶世の最優秀種として普く愛好せるべき理想花落ちつきある光彩を放つ芳香清冽四邊に薫じ粉々の俗塵を拂って餘すところなく最優秀種

金龍閣   貳圓五拾錢
崇高高雅なる落付ある未だ曾て見ざる純黄色にして新種中の最高級品として近代人の希望するところを表現して餘すところなし花輪又頗る豊大雨に絶對褪色せず性強健にて伸張力旺盛美觀云ふことなし

 

真っ赤と純黄のつるバラです。説明の部分に「四季咲種を凌駕する」とあるので一季咲きなのでしょう。2円80銭と2円50銭をセットで購入すると「箱代送料無料奉仕」で4円50銭になります。お買い得ですね。

その他のツルバラは四季咲きが多いようです。

 

黒雲龍 貳圓五拾錢
群芳殿 貳圓
四季の輝 壹圓
曉山 六拾錢
峰の雪 六拾錢
朱天閣 六拾錢
桃園 六拾錢
凌雲 八拾錢

 

銘花六種として

 

常春
ゴールデンクライマー
ホワイトクライマー
クライミングステシエリン
ミセスアーサーシエムス
ニユードン

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六種で「貳円」です。「箱代送料無料奉仕」でまとめて2円とは案外リーズナブルです。
ニュードン(New Dawn)は現代にまで続く銘花ですし、クライミングステシエリンはMme. Gregoire Staechelin マダム・グレゴワール・ステシュラン(=スパニッシュ・ビューティ)ではないかと思われます。

 

昭和初期。もちろんインターネットなどあるわけもない時代です。この目録を頼りに、さて皆様、どのバラを選びますか?

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