バラの日本史 番外編<昭和のバラ>

『バラエン』という、昭和初期の植物の通信販売目録を古本で見つけました。
園芸植物(含む野菜)の目録で、躑躅、石楠花、菊、ダリア、カーネーション、ゼラニウムなど掲載植物は多岐にわたっていまが、中でもバラはかなりのページをさいて紹介されています。

植物の輸入販売及び目録発行は「株式會社バラ園植物場」さん、現在の「有限会社バラ園植物場/ローズガーデン」さんです。(http://www.baraen-rosegarden.co.jp/)
会社概要を拝見いたしますと、明治時代から花き園芸の生産に取り組み、大正10年代にバラ園植物場を設立、昭和初期に”植物目録を作成し、全国に向けて植物各品目の通信販売を始める。”とあります。私が入手したのはこの一部、昭和6年、8年、15年の植物目録です。

第一次世界大戦が終わったのが大正7年(1918年)、第二次世界大戦が始まったのが昭和14年(1939年)。目録の時代はこんな世の中でしたが、バラは販売されていました。
この目録をサイトに掲載するにあたり、現在のバラ園植物場さん宛てに問合せをしたところ、快く掲載許可を頂きました。
その際に伺ったところでは、昭和初期頃の二代目の社長様は
「贅沢をせず、国民が一丸となって戦うときだが、心まで貧しくすることは世界をリードする国民らしくない。・・・益々優秀品の生産に新種の作出に無報酬の努力こそ、今日われわれに課せられた使命であり、それを次代の日本国民へ譲り渡すべき重要な責務がある」
と書き残しておられるそうです。
このような方々が、バラを、園芸を、今に繋いで下さったのだと思います。譲り渡されたのは私たちであり、そして私たちにも次代へ繋いで行く責務があるのだと思います。

そのようなことにも思いを馳せながら・・・・・・
昭和初期にはどんなバラが販売されていたのか、どのように宣伝されていたのか、目録の中身をご覧下さい。

昭和6年のバラ

『新發賣品と特價提供號』
昭和六年三月二十五日發行 植物目録 第二百五十二號

植物目録の春の特別号です。
32ページ中4ページと5ページにバラが掲載されています。

バラエン_昭和6年
表紙

まずは最初の宣伝文句を見てみましょう。

薔薇を御注文遊ばすには!
何品によらず大量生産者へ直接御注文遊ばすのが一番良い方法です
小栽培者や取次店への御用命はまゝ品の不良品種不正確等皆様に不利益な事が起こり易いものです、薔薇はバラエンです 優秀品は總てバラエンの大栽培場から生産されて居るのでございます

四月の特賣品
薔薇の優秀新苗を發賣いたします
此新苗は精撰したる實生野薔薇砧木を以て接木したるもの。本年六月より連續開花します
是非此新苗を御試驗下さい

四季咲きバラの接木新苗の販売ですが、この頃の通信販売では、注文と違う苗木が届いた・・・などということはよくあったのでしょうか。おそらくこの頃はまだバラに馴れていないために間違えたりわからなかったりするお店もあったのかもしれません。

次に、実際にどのようなバラが販売されていたのかを見てみましょう。

薔薇優秀新苗 發賣

金花鳥   壹圓
性強健なる四季咲純木性彩色優艶なる淡桃櫻曙底黄を彩り半紅色を加味す劍瓣八重咲き花容整然なる巨大輪芳香峻烈なる優秀銘花なり

春粧   八拾錢
鮮麗なるピンク色にし金色に底を彩り滿開の上は全瓣淡珊瑚色を呈す芳香烈しき八重咲巨大輪四季咲純木性にして薔薇花中空前の珍種なり

春麗   八拾錢
性強健なる四季咲純木性彩色優艶なる淡樺櫻曙ボカシ底クリーム黄を粧ひ内金色を加味す劍瓣八重受咲き整然なる巨大輪芳香峻烈なる優秀銘花なり

御帳臺   八拾錢
性強健四季咲純木性彩色優美なる乳白色に花底艶麗なる淡い櫻色を粧ひ花裏珊瑚色を呈す八重受咲劍瓣芳香峻烈花容豊大他に其の比を見ざる稀代の銘花

岳陽   壹圓
前代未聞驚可き最巨大八重牡丹咲の珍奇種にして彩色は鮮麗なる濃珊瑚色に底黄滿開瓣先淡色ボカシ花容抱咲牡丹花形芳香強烈

ゴールデン、エンブレーム   壹圓
露地温室何れにてもよく育ち總ての要求を具備し四季咲純木性葉は大葉奇異の光澤を有し花色は比類なき鮮麗なる純黄金色にて滿開後も褪色せず一見驚駭恍惚せしむべく劍瓣受咲の巨大々輪芳香強烈花容豊麗壮大なり

光榮に輝くバラ プリンス、アサカ   壹圓貳拾錢
畏くも朝香宮殿下がバラの國米國御巡遊の際特に御目に留めさせられ、よき花よ、愛らしの花よと御仰せられ米國人もその花の光榮を記念するためプリンスアサカと命名したバラであります。花型大輪咲、重ね厚く淡紅色見るからに品位ある優秀種

さて、これでどんなバラが販売されていたのか想像していただけたでしょうか?
どのバラの説明にも出てくるのが「強健」「四季咲」「大輪」「芳香」。「劍瓣」もあります。ハイブリッド・ティーがもてはやされた時代です。

「金花鳥」から「岳陽」まではどのようなバラか実物の見当がつきませんが、ゴールデン・エンブレムは現在流通している同名のバラと同一だとしたらアメリカのバラです。
プリンス・アサカは「米國御巡遊の際」と書いてあるのでやはりアメリカですね。残念ながら現在は流通していません。せっかくプリンスを命名したのにもかかわらず消えてしまったということは、強健でなかったか又はその他の理由で残念ながら流通に適さなかったのではないかと想像します。

上記の他、六拾錢~貳拾五錢と少しリーズナブルなバラもあります。

「晃輝」「醉妃」「重陽」「芳春」「金華」「コロンビヤ Columbia」「ハツドレー Hadley」「マダムバツターフライ Mme. Butterfly」「赤城」「陽春」「金鷲」「舞殿」「慶賀」「天晴」「黄河」「金華山」「雷光」

「マダムバツターフライ」は今でもマダム・バタフライとして現役です。

マダムバツターフライ Mme. Butterfly   五拾錢
前代未聞驚べき最巨大輪八重劍瓣の珍奇種にして性強健四季咲純木性葉は青緑大形にして花色は優美なる淡櫻色に底黄暈芳香強烈花容の豊大なる他に其の比を見ざる稀代の銘花温室速成用として理想

大輪、四季咲、芳香の他に、温室速成用という言葉が出てきました。昭和初期にバラ栽培をするのはある程度裕福な人であろうと思いますが、温室まで作っていた人が多かったということなのでしょうか。
バラ栽培は現代よりももっともっと高貴な楽しみだったのかもしれません。

昭和8年のバラ

『五月の特賣品』
昭和八年五月一日發行 植物目録 第二百七十六號

植物目録の五月の特別号です。
16ページ中(表紙や裏表紙もカウントされています)4ページ~6ページにバラが掲載されています。

表紙

まずは最初の宣伝文句を見てみましょう。

五月の特別奉仕 花蕾付優秀新苗が出來上がりました
新苗の植付は五月中が移植の最好季です 此の優秀新苗は第一回の花は早やくも六月にニ三輪開花引續き秋まで大多數開花いたします

最新優秀薔薇 半額提供
五月の特價大奉仕に以下八種に限り半額奉仕いたします 尤も此の八種は繁殖成績も良好在品數多數な品種揃ですけれども半額とは思切った特價です 但し特價豫定數に到達場合は勝手乍ら締切御返金いたしますの此の自由だけ我儘な願ひですが御聞入れ下さい

現代文と比較すると”てにをは”が難しいことになっていますが・・・早い話、蕾付きの新苗をたくさん作ったので思い切って半額にするから買ってね、でも売り切れたらごめんね・・・・・・です。

では、その大奉仕の八種はどのようなバラなのでしょうか。

最新特別群拔銘花 最新代表優秀花

鳴鸞   七拾錢
瓣底濃黄色に最も鮮麗なる緋紅を浮出す豊かな高心型の劍形瓣は快開し美事八重巨大輪實に見惚れする花です 性強健な四季咲純木性彩色の秀麗に花形の理想的他に比類ない銘花です

蘚峰   五拾錢
透き通る様な美しき青白色巨大輪劍瓣球抱咲の豊大なる花は四季を通じて良く咲揃ひます 其の高貴な香と純木性の強健さは白色バラ中の銘花です

瑞光   五拾錢
強健なる純木性直受咲花首強く花壇切花用として最適の黄色系銘花鮮麗なる深黄色は輝き瓣先のクリームばかしは一段の貴品あり

丹鳳   参拾五錢
最も鮮明なる濃紅色抱咲の巨大輪にて牡丹の如く重ね多く切花として最上のものです 強健な純木性の花梗は次ぎから次ぎへと伸び咲き續けます

天佑   参拾五錢
清麗なり黄色系唯一の銘花なり性強健にして花梗強く長蕾高心型他の追從を許さヾる貴品を持ってゐます

瑤台   参拾五錢
色彩の秀麗珍稀なる正に薔薇花に於て空前の珍種とす花容の宣しきと色彩の鮮麗なるとよく調和せり最新の銘花です 濃紅にオレンヂを含み絶對褪色せず整然たる花型はくずれません

彩雲   参拾錢
鮮桃色に橙色のボカシ入りて枝立最もよく多花性であり花壇植として好適四季花の絶ゆることありません 殊に早春及秋季の二季は色彩豊麗となります

李園   貳拾五錢
性強健なる純木四季咲彩色優美なる整然たる重瓣抱咲鮮桃色にして褪色せず花梗強く長く切花花壇用最適種です

昭和6年の目録では新苗が1円~70銭くらいでしたから、このお値段は確かに半額なのでしょう。
どのバラの説明にも出てくるのが「強健」「四季咲」「大輪」は相変わらずですが「芳香」を強調するバラが昭和6年より減ったように思います。その代わり「花梗強く」という表現が出てきました。花梗(かこう)とは花を支える枝のことです。色鮮やかな大輪の花がまっすぐに咲くハイブリッド・ティー。オールド・ローズとは全く違う印象のバラの出現にすっかり夢中になってしまった人々の様子が見て取れます。

半額セールの次には輸入バラが掲載されています。

超高級最新薔薇

昭和八年度新發賣
弊社の誇りとせる超高級種です 直輸入薔薇中これ以上の品種はございませぬ

マツクレデースカーレット
MCGREDY SCARLET  H.T. (MCGREDY 1930)
   壹圓
これこそ不出世の稀代の銘花です 一九三〇年英國マツクレデーの作出せるもので深紅天鵞絨に優艶なる若紫を粧ふ色高心型八重咲大々輪花梗長き強健種 H.T. 純木性四季咲芳香特に強烈

(以下、花名のみ転載)

「マツクレデーアイボリー MCGREDY IVORY」
「ウヰリアム オー WILLIAM ORR」
「キューバ CUBA」
「レデーマーガレツトスチユワート LADY MARGARET STEWART」
「ダクターエ アイ ペテー DR.A.I.PETYT」
「ゴールデン クリーム GOLDEN GLEAM」
「マーシヤ スタンホープ MARCIA STANHOPE」
「フアーシス ネーシヨン FANCINATION」
「エデス ネリー パーキンス EDITH NELLIE PARKINS」
「レツド プレミヤ RED PREMIER」
「ミセス クーリツヂ MRS.COORINGE」

花名の他に、ハイブリッド・ティーという品種名、英国のマツクレデー(現代ではマグレディーと言っていますが)さんが1930年に作出、という情報があります。
現代のバラ図鑑に匹敵する情報量です。

写真も何枚かは掲載されていますが、実物の印刷が本当にこのようにピンクなのです。
どんなバラなのかを詳しく知るのは、なかなか難しそうです。

次に、ページの半分を割いて「フジ」というバラを紹介しています。

雪白巨大輪薔薇 フジ 特別仕立品
  特別仕立  五本 五拾錢 荷造送料 二十五錢
  同            十本 壹   圓 荷造送料 三十五錢
  同            百本 拾   圓 荷造送料 ニ       圓

優秀薔薇 フジに就て
バラ數百種中雪白の巨大輪 本種に及ぶものは有りませぬ性質も特に強健です
特に弊社が大量生産品種として指定したのも此の故です是の花壇には是非此のフジを御植付下さい、
お値段もお安くございますから今までの様に一種一本や二本と言はず、十本百本と多數御植付下さい、其して惜げなくどしどし切花として御使ひ下さい

お送りする品は
此の寫眞通りの特大苗です。花蕾は此春に十數輪開花いたします。枝振りも申分ございませぬ
なぜ此の品が此のお値段で
と申しますと大量生産なればこそです 尚其の上特賣品として合理的生産原價奉仕です
只今栽培現數 十萬株でございます

このバラは「不二」とも書かれる「フラウ・カール・ドルシュキ」であろうと思われます。現代でも人気のある白いツルバラです。
それにしても10万株も生産するとは思い切ったもので、1本・2本ではなく10本・100本買いましょうと言っています。実際10本と100本の値段が出ているということは冗談を言っているわけでもなさそうです。どんな人が100本買ってどこへ植えたのか、興味のあるところです。

バラの最後に掲載されているのは盆栽用のバラです。

「殿」「晃」「曙」「汀」「齢」「司」「潮」という名前が付けられています。
江戸時代には十六夜薔薇などを盆栽にしていたと聞きますが、このバラは現代で言うミニバラなのでしょうか、それに似た矮小種なのでしょうか?

昭和15年のバラ

『昭和十五年度 春季植物目録録』
第三百六十七號

植物目録の昭和15年度の春季植物総目録です。
48ページ中8ページ~14ページにバラが掲載されています。1ページから7ページは目次(又は目録のダイジェスト?)なのでバラがトップだといっても良いでしょう。

表紙
最新最高級優秀花揃

最新薔薇 昭和十五年度 發賣
御期待の昭和十五年度發賣の新種はすばらしい優秀銘花揃です こんな超高級の銘花揃の年は又と有りますまい

大金剛   貳圓五拾錢
黄金の新種
輝くばかりの黄色にして本種の右に出ずるものなし然も風雨に會ふも褪色せず落な花の終末に至るまで輝かしき色彩を變せず莖は打ちくしき暗紅色にして光澤を有し葉は鮮かなる緑色に梢々青銅色を装ふ樹勢立勢を形勢の病害及寒氣に強く英國に於て最高名譽誉を受く花容の崇高至純正にバラ界の王座を占む

聖運   貳圓五拾錢
雪白の新種
清麗無類會見ざる雪白色四季咲八重巨大輪花莖強く性強健純木にして病菌に強きこと前種に等しく品評會に於て入賞の榮冠を得たる白色中の冠たり殊に芳香強烈にて花壇に切花に鉢植に實に申し分のない萬人向のする稀代の優秀新花にて批類なき白バラ界の冠たり

錦鶏   貳圓五拾錢
覆輪の新種
瓣の外面美しき林子色内瓣軟かなる淡い鮭肉色基部ウコン色を漲らした花苗又洋紅色麗はしく長型上品自然の妙技本種に盡く花型整然たる八重四季咲の巨大輪花壇切花鉢植として一點缺くる處なく花付多く特有る芳香頗の高く品評會用として絶好

ここまでが2円50銭。
その他に1円70銭が「肇國」「黎明の輝」1円50銭が「麗春苑」「恩賜衣」です。

「大金剛」の説明を見ると「英國に於て最高名譽誉を受く」とあります。
英国のバラ賞といえばNRS(National Rose Society イギリスバラ協会の賞)でしょうか。
昭和15年は1940年ですが、何年の受賞花でしょうか。
1940年度の受賞花がすぐに仕入れられたのか、それとも数年前の受賞花か・・・この頃はどのような輸入事情だったのでしょう。
名前も英国で「大金剛」と命名されたわけではないでしょう。
何という原名のバラに「大金剛」という和名を付けたのでしょう。

最新特別高級薔薇

この幣社が今までにこれ程銘花として總ての點を具備した品種を作出した事はございませぬ正に不出世の銘花神品と言ふべきです

聖代の春 特別銘花   六圓
驚くべき豊麗巨大花
花瓣厚く劍瓣花形は整然理想的なるクリーム淡レモン黄粧其の彩色の妙筆絶芳香特に峻烈性強健四季咲多花性これこそ正に銘花としての總ての要求を具備する不出世の銘花です

八絋の輝 特別銘花   五圓
絶世の巨大花
彩色絢爛實に恍惚せしむる鮮麗なる濃々照紅高心形花容整然芳香峻烈最後まで褪色せざる近來の稀品にして斯界に於ける重鎮紅黄花中此の右に出づるものなく色彩の優艶なると花容の豊大なると花容へ豊大なるには何人も一驚するならん殊に性強健純木性四季咲着蕾多き稀代の神品

どちらもハイブリッド・ティー礼賛といった感じです。
前出の「大金剛」が2円50銭であったことを考えると、5円、6円というのは本当に「特別高級」です。
「全ての要求を具備する」「右に出るものなく」と、かなりの自信作だったのでしょう。

問題の薔薇 最新作出 珍色貴品

此の三種こそ其の彩色の珍貴 花形の驚異的の新型 斯界に問題となる珍種揃です

黒珠精   四圓五拾錢
黒花の珍種
今まで黒花も四五種は作出されましたが中輪或は性質弱許し難き缺點揃でしたが本種こそ正に奇跡の出現花容巨大なる眞の黒濡羽烏色花容豊麗芳香最強の銘花最高の貴珍花 花瓣厚くして且つ廣く花形型又理想的にして分枝多きを以つて花付頗るよく實に希望するところを最も完全に具備して一點遺憾なく將來壓倒的人氣を最優秀級種の貫禄を發揮する銘花珍色又豊大清新花香熟したる果實の如き魅力を有す樹性強健病害に對する抵抗最も強し

興亞の曉   四圓五拾錢
朱銅金樺の珍色
本種の彩色は筆畫にあらはし難き神秘なもの何しろ黄地朱銅珊瑚色を全瓣に漲し金樺に變ず其の變地の至妙畫に表す事の出來ぬ珍品花瓣丸瓣滿開牡丹咲四季咲芳香峻烈の高貴品種豊大艶美眞に萬人驚倒の優秀花にして花輪の偉大なること香氣の峻烈なること絶對從來のバラに見ざるところ花立ち好く四時殆ど花の絶ゆることなし弊社が幾多のバラ中廣く江湖に御愛培を進めんとする最も最高級種なり

世紀の錦   四圓五拾錢
絞り花の出現
これこそ理想の出現奇跡の出現と申すべきで待望久しかりし絞り花がバラエンによって初めて作出されました色彩優艶なるピンクに鮮麗なる雪白の大立絞り又は刷毛目其の鮮明なる正に前代未聞の珍彩加ふるに花形整然なる劍瓣中心高組形崇高至純可驚巨大輪芳香峻烈滿開に至るも花容整正これこそ奇跡の出現と申すべき最高の銘花

「黒珠精」は黒バラです。「黒濡羽烏色」はカラスの濡れ羽色ということですね。本当にそうだとしたら見たことが無いくらい黒いことになります。そして許し難く弱々しかった性質が改善されています。
「興亞の曉」は黄地朱銅珊瑚色。黄色地に、朱色で、銅メダルのような色で、珊瑚色・・・? 難しいです、まさに筆画に表し難いものがあります。
「世紀の錦」はピンクと白の絞りです。「待望久しかりし」と絞りは期待されていたのですね。「刷毛目其の鮮明なる」ですから随分はっきりした絞りのようです。

次に、新種ではないけれど「最高級」とされるバラがたくさん紹介されています。
花名と値段だけを簡単にまとめてみました。

千代の榮参圓
御國の譽貳圓
聖代の輝貳圓八拾錢
末央宮壹圓五拾錢
大麟鳳貳圓五拾錢
祥陽貳圓五拾錢
聖輝貳圓
寶祚の榮貳圓
芙蓉の雪壹圓五拾錢
八絋の榮貳圓
芳麗壹圓五拾錢
昭陽壹圓
玉輦壹圓五拾錢
大雪嶺壹圓
興亞の春壹圓五拾錢
春華壹圓五拾錢
錦樓閣貳圓
曉映壹圓參拾錢
銀閣壹圓五拾錢
待春壹圓五拾錢
玉尊壹圓參拾錢
天壞壹圓五拾錢
無窮の譽壹圓參拾錢
關雪壹圓
聖恩壹圓參拾錢
金帝壹圓
國ノ輝壹圓
玉階壹圓
扶桑壹圓參拾錢
麗鳳壹圓
燦麗壹圓
白鳳壹圓
霞ノ關壹圓
玉祥壹圓
大國華壹圓
丹嶂八拾錢
春琴抄壹圓
金城壹圓
白雪壹圓
大觀八拾錢
曉陽壹圓
豊明殿參拾五錢
大統七拾錢
白瑤八拾錢
天照壹圓
玉鳳壹圓貳拾錢
玉恩八拾錢
宣春六拾錢
月皎八拾錢
バルセロナ四拾五錢
エスペランス六拾錢
オスワルド シーベル五拾錢
エフ カンポ五拾錢
ダーガー五拾錢

たくさん掲載されています。花の説明は省きましたが、どれも、秀麗で優美で巨大輪で四季咲で強健で銘花らしいです。

次に、1ページを割いて紹介しているのがクライミングローズです。

最新巨大 輸入房咲 クライミングローズ

最新巨大輪咲蔓性バラを直輸入いたしました
其の花が普通バラと少しも變らぬ豊麗巨大輪と言ふのですから此の滿開は其れは其れは美しいものです

こんな所に御植下さるなれば
花園に薔薇の花柵をお作り願ひたいものです 丁度藤棚の様にアーチに玄關口に家屋や建物に昇らせば、一寸贅澤ですが生牆の所々にもこうゆく風に申せば植付願はなければならぬ所はいくらでもございます 其れに近代的文化住宅なれば此のバラをお見逃しになる事出来ませぬ

ツルバラはバーゴラや建物に誘引しましょう、ということです。バーゴラとは元は葡萄棚のことだそうで、つる性の植物を絡ませるためのトンネル状の棚を意味します。
さて、バーゴラにどんなつるバラを絡ませるのでしょうか。

クライミングローズにこんなすばらしい銘花が作り出されました 彩色秀麗花容豊麗の最新銘花で其上揃ふで四季咲種を凌駕する芳香峻烈なるすばらしいクライミングローズです

興亞の輝   貳圓八拾錢
巨大花比類なき眞赤色絶對に褪色せず花又花と連續開花し且つ樹性強健發育旺盛よく繁茂しアーチピーラ用として絶世の最優秀種として普く愛好せるべき理想花落ちつきある光彩を放つ芳香清冽四邊に薫じ粉々の俗塵を拂って餘すところなく最優秀種

金龍閣   貳圓五拾錢
崇高高雅なる落付ある未だ曾て見ざる純黄色にして新種中の最高級品として近代人の希望するところを表現して餘すところなし花輪又頗る豊大雨に絶對褪色せず性強健にて伸張力旺盛美觀云ふことなし

昭和十五年度新種 最新特別銘花

2円80銭と2円50銭をセットで購入すると「箱代送料無料奉仕」で4円50銭になります。お買い得ですね。
説明の部分に「四季咲種を凌駕する」とあるので一季咲きなのでしょう。

銘花六種として紹介されているものがあります。

常春
ゴールデンクライマー
ホワイトクライマー
クライミングステシエリン
ミセスアーサーシエムス
ニユードン

六種で「貳円」です。「箱代送料無料奉仕」でまとめて2円とは案外リーズナブルです。
ニュードン(New Dawn)は現代にまで続く銘花ですし、クライミングステシエリンはMme. Gregoire Staechelin マダム・グレゴワール・ステシュラン(=スパニッシュ・ビューティ)ではないかと思われます。

昭和初期。もちろんインターネットなどあるわけもない時代です。
この目録を頼りに、さて、どのバラを選びますか?