昭和のバラ事情

昭和6年のバラ

『新發賣品と特價提供號
昭和六年三月二十五日發行 植物目録 第二百五十二號

植物目録の春の特別号です。
全32ページ中2ページを使ってバラが掲載されています。

バラエン
表紙

バラのページ(1)

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まずは上部の宣伝文句を拡大してみます。

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薔薇を御注文遊ばすには!
何品によらず大量生産者へ直接御注文遊ばすのが一番良い方法です
小栽培者や取次店への御用命はまゝ品の不良品種不正確等皆様に不利益な事が起こり易いものです、薔薇はバラエンです 優秀品は總てバラエンの大栽培場から生産されて居るのでございます

四月の特賣品
薔薇の優秀新苗を發賣いたします
此新苗は精撰したる實生野薔薇砧木を以て接木したるもの。本年六月より連續開花します
是非此新苗を御試驗下さい

接木新苗の販売です。
”まゝ品の不良品種不正確等”が起こるとのことです。
注文と違う苗木が届いたなどということはよくあったのでしょうか。
まだバラに馴れていないために間違えたりわからなかったりするお店もあったのかもしれません。
現代では新苗はまず摘蕾が推奨されていますが、この頃は4月に新苗を買ったら6月からもう連続開花させて良い方針だったように思われます。

次に、実際にどのようなバラが販売されていたのか下部を拡大してみましょう。

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薔薇優秀新苗 發賣

金花鳥   壹圓
性強健なる四季咲純木性彩色優艶なる淡桃櫻曙底黄を彩り半紅色を加味す劍瓣八重咲き花容整然なる巨大輪芳香峻烈なる優秀銘花なり

春粧   八拾錢
鮮麗なるピンク色にし金色に底を彩り滿開の上は全瓣淡珊瑚色を呈す芳香烈しき八重咲巨大輪四季咲純木性にして薔薇花中空前の珍種なり

春麗   八拾錢
性強健なる四季咲純木性彩色優艶なる淡樺櫻曙ボカシ底クリーム黄を粧ひ内金色を加味す劍瓣八重受咲き整然なる巨大輪芳香峻烈なる優秀銘花なり

御帳臺   八拾錢
性強健四季咲純木性彩色優美なる乳白色に花底艶麗なる淡い櫻色を粧ひ花裏珊瑚色を呈す八重受咲劍瓣芳香峻烈花容豊大他に其の比を見ざる稀代の銘花

岳陽   壹圓
前代未聞驚可き最巨大八重牡丹咲の珍奇種にして彩色は鮮麗なる濃珊瑚色に底黄滿開瓣先淡色ボカシ花容抱咲牡丹花形芳香強烈

ゴールデン、エンブレーム   壹圓
露地温室何れにてもよく育ち總ての要求を具備し四季咲純木性葉は大葉奇異の光澤を有し花色は比類なき鮮麗なる純黄金色にて滿開後も褪色せず一見驚駭恍惚せしむべく劍瓣受咲の巨大々輪芳香強烈花容豊麗壮大なり

光榮に輝くバラ プリンス、アサカ   壹圓貳拾錢
畏くも朝香宮殿下がバラの國米國御巡遊の際特に御目に留めさせられ、よき花よ、愛らしの花よと御仰せられ米國人もその花の光榮を記念するためプリンスアサカと命名したバラであります。花型大輪咲、重ね厚く淡紅色見るからに品位ある優秀種

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特價 以上新苗 七種 箱代送料共 五圓七拾錢

説明によく出てくるの言葉は”四季咲””大輪(巨大輪)””芳香””八重””強健””剣弁”。

どのようなバラか実物を想像するのは難しいかもしれません。
ゴールデン・エンブレムは現在流通している同名のバラと同一だとしたら、
 Golden Emblem Samuel McGredy II (Ireland, 1916)作出
かもしれません。
プリンス・アサカは現在は流通していません。
残念です。


新發賣新発売
特價提供號特価提供号
總て総て
實生実生
連續連続
壹圓1円
劍辯剣弁
貳拾錢20銭
Memo

バラのページ(2)

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晃輝  六拾錢
彩色絢然燃ゆるが如き濃照朱紅にして辯底黃を点し配色鮮麗を極めたり八重劍辯巨大々芳香高き銘花 

醉妃  六拾錢
性強健なる純木四季咲彩色特に優美なる乳白色に中央艶淡櫻クリーム粧ひ八重劍辯の最大輪芳香峻烈花容豊麗

重陽  七拾錢
絢爛比類なき濃々紅にして八重巨大輪芳香殊に峻烈花容の豊麗彩色の秀麗なる紅薔薇中稀有の優秀新花なり

芳春  五拾錢
芳香特に峻烈豊麗純白色底部淡き水黃粧八重最大輪優秀花

金華  参拾五錢
樹性強健葉は美しい青緑色にして發育宜しく濃金色の八重巨大輪にして四季咲なり花容高尚にして爽快なる芳香を放つ推奨すべき優秀銘花なり

コロンビヤ Columbia(H.T.)   参拾錢
歐米至る所にて好評を博せる優秀種にしてオフエリヤとミセスヂヨージシヨーヤとの交媒種で厚辯八重鮮鮭桃に中心黃を帯び香氣峻烈巨大輪温室速成用種

ハツドレー (Hadley H.T.)   参拾錢
濃緋照紅の大々輪て促成用として最も需要の多き品種なり成長容易芳香卓越花數多い優秀花で色彩鮮明なるは紅花中の第一位なり八重長蕾盛咲温室速成用種

マダムバツターフライ Mme. Butterfly   五拾錢
前代未聞驚べき最巨大輪八重劍瓣の珍奇種にして性強健四季咲純木性葉は青緑大形にして花色は優美なる淡櫻色に底黄暈芳香強烈花容の豊大なる他に其の比を見ざる稀代の銘花温室速成用として理想

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以下 一種 貳拾五錢

赤城  陽春  金鷲
舞殿  慶賀  天晴
黄河  金華山  雷光

「マダムバツターフライ」は今でもマダム・バタフライとして現役です。
前代未聞の珍奇種だそうです。

もし同名のものが他になければ、
赤城 = Red Radiance
天晴 = White Killarney
金華山 = Lady Hillingdon
の可能性があります。

温室速成用という言葉が出てきました。
昭和初期にバラ栽培をするのはある程度裕福な人であろうと思いますが、温室まで作っていた人が多かったということなのでしょうか。
温室速成が必要な用途はコンテスト出品でしょうか。
バラ栽培は現代よりももっともっと高貴な楽しみだったのかもしれません。


劍辯剣弁
絢爛けんらん
發育発育
歐米欧米
香氣香気
花數花数
暈(ぼか)し
Memo