先日入手した古本「ばらの四季 10号 1960 summer(新日本ばら会)」に掲載されていた昔のバラの和名を少し紹介したいと思います。
日本がバラを輸入し始めた頃、バラは和名を付けて販売されていました。
英語やフランス語やドイツ語のバラ名にかなり戸惑ったためと思われます。
明治になる直前まで鎖国をしていたし、テレビもインターネットもなかった時代ですから。
しかし、輸入した人たちがそれぞれに和名を付けてしまったり、翌年に違う和名に変えてしまったりして、大変都合の悪いことがおきていました。
そこで帝国ばら協会が「イカン!遺憾!」と言って、バラに和名を付けるのを禁止し、原名のみ使用するようにと公告を出したのが昭和20年です。
だからといってすぐに和名がなくなるものでもなく、1960年(昭和35年)の新日本ばら会の会報には和名が書かれています。
一部抜粋して紹介します。
No. | 英名 | 和名 | データ | バラの色 |
---|---|---|---|---|
1 | Juliet | 司牡丹 金赤陽 玉垣 春光 | 1910 HP イギリス W. Paul & Son | 濃いローズ色がかった赤から濃いローズ色 裏はいくらか赤みのある黄色 |
2 | Kaiserin Auguste Viktoria | 敷島 清薫 | 1891 HT ドイツ Peter Rambert | 雪白色 中心に僅かにレモン色 |
3 | Katharine Pechtold | 宮島 花紅葉 | 1934 HT オランダ Verschuren Pechtold | 銅色がかったオレンジ |
4 | Killarney | 洛陽 紅女皇 | 1898 HT アイルランド A. Dickson | 明るいピンク |
5 | Königin Luise | 王雪 白雪 雪嶺 | 1927 HT ドイツ Christoph Weigand | 白色 |
6 | Lady Hillingdon | 金華山 金鵄 | 1910 T イギリス Lowe & Shawyer | アンズ黄 |
7 | La France | 天地開 文明開 | 1867 HT フランス Guillot Fils | 銀桃色 弁裏は明るいピンク |
8 | Lemon Beauty | 湖上の美人 湖上の佳人 | 1932 HT イギリス B. R. Cant | クリーム白 弁底はレモン黃 |
9 | Los Angeles | 春芳 鳳凰 都の花 都の春 | 1916 HT アメリカ Fred H. Howard | 鮮明なサンゴピンク 弁底は澄んだ黄色ボカシ |
10 | Louise Criner | 水晶光 水晶宮 連鶴 | 1919 HT フランス C. Chambard | 雪白色 中心はクリーム色 |
ここからは、ツッコミです。
No.1 Juliet<司牡丹、金赤陽、玉垣、春光>
この4つの和名の共通点は?
なし。
なんでこうなる?
No.2 Kaiserin Auguste Viktoria<敷島、清薫>
N0.4 Killarney<洛陽、紅女皇>
No.6 Lady Hillingdon<金華山、金鵄>
No.7 La France<天地開、文明開>
ドイツ帝国最後の皇后Viktoriaの和名は敷島、Killarneyの和名は洛陽、ティーローズの代表格の和名は金華山、ハイブリッド・ティー1号の和名は天地開、が有名どころなのですが、実はそれ以外の和名もありました。
片方だけが現代まで言い伝えられて残った理由は、命名者の力か、はたまた命名センスか。
No.3 Katharine Pechtold<宮島、花紅葉>
宮島のお土産にもみじ饅頭♪とニンマリした和名です。
No.5 Königin Luise<王雪、白雪、雪嶺>
No.8 Lemon Beauty<湖上の美人、湖上の佳人>
No.9 Los Angeles<春芳、鳳凰、都の花、都の春>
No.10 Louise Criner<水晶光、水晶宮、連鶴>
雪とか白とか、美人とか佳人とか、花とか春とか、光とか宮とか。
何が何でも、無理してでも、同じ名前を使いたくなかったのでしょうか?
この10種類だけを見ても和名のややこしさがわかります。
帝国ばら協会がイカン!と思うのもわかります。
しかしです。
原名表記にするのも、また問題があったそうです。
たとえば「Ena Harkness」。
エナハークネスとイナハークネスとイーナハークネスが今でも混在しています。
外国語はカタカナ表記するのはほぼ不可能です。
日本語では表現できない音がたくさんあるのです。
似た音を当てはめるしかありません。
そうなると意見が分かれるのは必至です。
世界中で言葉が違うのは本当に面倒です。
バベルの塔がいけなかったのでしょうか。
砂の嵐に隠されたバビルの塔は悪くないと思います。
当ブログでは10項目だけをピックアップしましたが、本にはもっとたくさんの和名が載っていました。
本館の「Rose Garden バラの和名」にはありったけ書きました。
あちらは”資料”のつもりですから、ダラダラと並んでいるだけで楽しくはないと思います。
日常使いには向かないホームページなので、他のあのバラは・・・などなど調べたいことがある場合にご利用いただければと思います。
コメント
時代の混迷がそのまま現れていますね〜
でも、同じバラに水晶光と水晶宮
湖上の美人と湖上の佳人
そして都の花と都の春
などと同じ言葉が見受けられるのはそのバラの印象なのでしょうか?
印象が同じなのに花だ春だとわざわざ言いかえるのが不可思議です。
でもどちらであっても作出者さんは「???」でしょう^^;
最近は日本のバラも多くなり、いろいろわかりやすくなりました。
日本名も、後から作る人は考えるのが大変になるのでしょうね^^;
面白い! 考えることの多い読書ですね!
何を考えてその和名になったのか、わからないものほど興味が湧きます。美しい黄色には金と付けたくなるのかな…とか。金赤は赤なんだけどなぁ。
HelpMeFindのデータベースを見ると、aka(別名)の多いバラもありますし、人は自らバラに名前を与えずにいられないのかもしれませんね。
バラ初心者の頃、エイブラハムダービーとアブラハムダービー、どっちかに統一してしてくれればいいのにと思ったものでした。
英語は「A=ア」ではないので、そこからしてもう無理があります。
日本人が言うエイブラハムもアブラハムも、どちらもネイティブに通じない可能性すらあります。
良かれと思ってつけた和名でしょうけれど、良かったのか良くなかったのか、なんとも言えません。
色の表現のしかたも、バラの名前と同じように色の和名(?)を駆使していて面白かったです。
それにしてもバラったら種類が多すぎて、この先どんな名前が出てくることか、キラキラネームも流行るのでしょうか、ちょっと楽しみです。